記事紹介article introduction

2004年11月号 ベンチャー・リンク “創意の鉄人”(連載4回目)

展示会で見たヒンジをヒントに脱ボルト式の超密閉タンクを開発

 「時間がある限り、新しい開発のネタを求めて展示会などに足を運ぶようにしています」
 こう語るのは、「エム・ワイ・エンジニアリング」を率いる吉田實相談役(代表取締役)。3年前に開発した半導体検査装置用の密閉タンクも、セミナーで偶然見かけたヒンジを参考にした。
 タンクだけではない。これまでに「ドライ漬物製造器」など数々のユニーク商品を開発している。
 こうした開発実績が評価され、いまでは大手企業からの開発依頼が後を絶たない。

 水処理装置・タンクなどの開発を筆頭に、金属・ステンレス加工品なら何でもこなすファブレス企業「エム・ワイ・エンジニアリング」相談役、吉田實氏のもとには、妙案が浮かばず、困り果てた大手企業の技術担当者からの開発依頼が後を絶たない。「食品や半導体などいろいろなところから最低月1件は依頼が舞い込みますね」と吉田氏は笑顔で話す。

 では一体、従業員8名ほどの同社のどこが凄いのかというと、吉田氏のアイデアが凄いのだ。その吉田氏に開発の秘策を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
 「物事は単純な発想で眺めてみるといいんですよ」。たとえば1990年代に県の食品研究センターと共同開発した業務用自動漬け物製造装置の発想は単純そのものだという。「漬け物は何日か押しをして水分を抜いていますよね。でも水分を抜いているだけ。ならば、機械的にやればいいじゃないかと、たんに思っただけなんですよ」
 同社では、それまで密閉のタンクなどを手がけていた。それを使って、真空状態をつくり出し、一気に水分を引く装置を考えたのだ。そして容量1リットルほどの机上実験機をつくり、データを収集、装置を開発した。「容器のなかで調味科を加えるのですが、真空状態だと、染み込みが速いんです。だから調味科のロスが少なくて済むんですね」
 また10年ほど前に開発した、ジャガ芋スライス機も、単純な発想で開発した。「『刃先にでんぷんが付着し、それが乾いてだんだんジャガ芋が切れなくなってくる。なんとかならないか』と依頼があったのです。で、なぜでんぷんが付着するかというと、刃先が上下に運動し、空気に触れ、でんぷんが乾いてしまうから。ならば空気に触れる時間を少なくすればよいと思ったのです」
 閃いたアイデアは遠心力を利用すること。円筒の容器の側面(内側)に刃先数枚を埋め込み、そのなかにジャガ芋を入れる。そして容器を回転させ、遠心力で側面に当たったジャガ芋は、そこに取りつけられた刃にあたりスライスされていくというものだ。
 ただし、吉田氏、ただ、たんに単純なわけではない。人一倍、探求心とトライアンドエラーの精神をもっているのだ。たとえば探究心。みずからを「ものづくりが好きな鍛冶屋」と称する吉田氏は、暇さえあれば、開発のネタ探しのため、セミナーや展示会、大学数授の研究室に足を運んでいる。「3年ほど前に、展示会に行ってヒンジを見ました。それを半導体製造装置の大型レンズを密閉するタンクに応用し、採用されたことがあるのです。それまで密閉タンクはボルトで締めていたんですが、ヒンジに切り替えたことで、作業が簡単になったんですよ」
 もうひとつのトライアンドエラー。同社では85年の創業以来、黒字経営を続けているが、利益の3分の1を内部留保、3分の1を“従業員たちで山分け”するとともに、残りの3分の1を開発費に振り分けているのだ。
 開発したもののうち約5割が製品化されているという。代表的なのが、十数年前に開発したバルブ弁。海外にも輸出される主力製品に育っている。
 ただ、5割の成功ということは、裏を返せば半分は製品化に至らなかったということ。たとえば4~5年前に金属加工で使う洗浄装置を開発したが、商品化に至らなかった。「中性洗剤を使った装置をつくったのですが、製造コストが高くなり過ぎたため、商品化には至りませんでした。800万円の開発費が飛んでしまいました(笑)」
 しかしである。その失敗からも何かを獲得しているのだ。たとえば洗浄装置。「その装置には洗浄後、乾燥の工程があったのですが、その乾燥の技術をタンクの耐圧試験機に応用したのです」。耐圧試験とは、水中にタンクを入れて、水漏れを確認する作栗だ。それまでは試験後、濡れたタンクを手で拭いて乾燥させていたのだが、それを乾燥技術を使って自動的に乾かすようにしたのだ。「直接的な売り上げ増にはなっていませんが、作業の手間を随分省くことがでさるようになりました」
 さらに、このトライ・アンド・エラーの精神は8人いる従業員全員に伝播している。なぜ全員が開発に積極的になれるのかというと、それは、「従業員全員が株主である」からだ。新入社員が入社してきた場合、ボーナス時、通常のボーナスに株式購入資金を上乗せして支払い、これを原資に吉田氏の持ち株を譲渡しているのだ。もちろん売上高、利益、投資計画など経営情報はガラス張りにしている。これで従業員が経営意識をもつようになっているのだ。じっさい、従業員は、ひとりあたり10社ほど得意先を担当し、土日返上で、受注から図面起こし、協力会社の手配まで精力的にこなしている。
 さきほど書いたトライアンドエラーで挑戦している開発案件も、その多くは従業員が事業計画を作成し、提案している。「(採否を経営会議で決めたうえで、)毎年何件かにトライをしています。いまは光ファイバー関連の周辺機器の開発を進めています」