記事紹介article introduction

2003年7月号 NICO press “ちょっと気になるチャレンジ企業訪問記”

プロ集団だからこそ可能な、技術開発&コーディネーター役

 エム・ワイ・エンジニアリングは、現・相談役の吉田實さんが勤務していた当時の部下4名と資本金の100万円を出資し合って設立された会社です。
 「もともと水処理関連製品のステンレス製品のタンク設計に携わっていたので、そのノウハウと、地元のステンレス加工技術を活かし、特殊ステンレス製品の開発・設計、製造を請け負う会社を立ち上げました」。いわば生産設備を持たないファブレス企業です。8名中、事務員をのぞく7名の社員が、開発から設計、CADをこなす開発スタッフですし、メーカーとの共同開発が多く、新開発には長岡技術大学をはじめ、専門分野の人たちの協力を得ているそうです。
 全国のガソリンスタンドで使われている「エア・キャリー(空気圧調整用のタンク)」、農林水産省技術開発補助金により開発した「真空漬物自動製造装置」、最近では「半導体製造用レンズを密閉するタンク」など、多種多様の製品を世に送り出しています。実験・開発はトライの連続。約5割が商品化されますが、たとえ失敗しても図面を次の開発に活かすことができるためノウハウは蓄積されます。
 「お客さまの信頼が第一です。おかげさまで人脈が広がり、今ではイギリスのグラスゴー、アメリカのヒューストンなど、世界10カ国以上の企業とダイレクトで取り引きさせてもらっています」。

経常状況をオープンにすることで風通しのよい会社に

 経営についても同社はベンチャー的な社風を持っています。社員それぞれが顧客を担当し、顧客別に受注・納品、売上、メンテナンスを管理しています。また社員はみな株主であり、経営計画、昨年度実績、売上高など、経営状況はもちろんのこと、吉田さんの給与までもすべて開示しています。そして創業以来、利益の3分の1を開発、3分の1を株主配当として従業員に還元、残り3分の1を社内留保とすることを、継続しているそうです。
 「会社は社長個人のものではない。だから私は身内を会社に入れません」と吉田さんは言います。社員の裁量を正当に評価し、社内の風通しをよくすることで、フリーなディスカッションの場を作っています。「ものづくり集団」のフロンティア精神は、経営にも新風を呼び、企業の新たな可能性を切り開いています。

1998年3月号 月刊 中小企業”企業家魂”

技術開発・ファブレス型企業として 新たな価値の創造をめざす

エム・ワイ・エンジニアリングの吉田實社長は、設立以来、技術開発型企業として、注目すべき数々の製品を開発してきた。
“モノ”づくりにこだわりながらも、利用する立場での“価値”を考えることによって、新分野・新市場の開拓に成功している。

全員持株、業績配分で 従業員の意欲を高める

─── どんな経緯から会社を設立されたのですか。

 「私は、もともと水処理関係の会社にいたのですが、1985年5月にその会社が倒産してしまい、同年8月に私の部下4人とともに現在の会社を設立しました。外注先の工場の一室を借りてスタートし1990年に現在の場所に移転しました。
 以前いた会社が倒産した原因の一つは、オーナーが公私混同していたことでした。そこで、新会社を設立するに当たって、ついてきてくれた4人の部下と会社のあり方についてよく話し合い、資本金の100万円を共同で出資することにしました。
 当社では、当初から利益の3分の1を社内に留保すること、3分の1を従業員に株主配当として還元すること、3分の1を次の開発のための資金とすることを決めています。この考え方はいまもまったく変わっていません」

─── 従業員は何名ですか。

 「現在11名です。全員が株主です。利益で増資する際は、従業員にボーナスを支給するのと合わせて、株を持たせるようにしてきました。ボーナスの額は、年間5ヶ月分を切らないことを約束しています。もちろん、各期の決算書も、従業員全員に配布しています。
 毎月の給与は、業績配分にしています。つまり、基本給は決まっていますが、そのほかは業績をもとに支給するのです。半期ごとに担当者別に売上、利益を公表することになっています。これによって配分が決まることになります。経理は、すべて従業員にオープンにしています。私の給与も公開しているので、従業員は知っています。
 従業員の担当は、客先ごとに決めています。各期の初めに担当ごとにその期の目標売上、利益を公表することになっています。ただ、達成することが明らかにムリなときは、私が少し調整させるようにしています。従業員が体をこわしてはなんにもなりません。
 当社は、週休二日制をとっていますが、出勤簿はありません。仕事が忙しい人は、土曜日や日曜日でも仕事をやっています。自分の仕事に対して、強い責任感を持っているからです。これは、私のほうからいってやれるものではありません。
 さきほど話したように、各期末には、各担当者がその期の売上、利益を公表します。今期の場合は、全体でほぼ90%の達成率であり、まずまずといったところです」

大手企業や公共機関との 共同開発を積極的に推進

─── 注目すべき製品を開発しておられますね。

 「大手企業や公的機関と共同開発することが多いです。当社は小企業ですから、いろいろな分野の知識、ノウハウを持っていないので専門のところに相談にいったり、試作品を実験してもらうといった方法をとっています。
 最近の例では、富士電機テクニカと共同開発した「缶巻締自動検査システム」、新日鉄化学と共同関発した「遠心分離機用スクリーン」、農林水産省技術開発補助金により開発した「真空漬物自動製造装置」、キストーン社の依頼により開発した「特殊バルブ部品」などがあります。
 たとえば、「缶巻締自動検査システム」は、缶製品の巻締め部の検査をする装置です。従来、この検査は、熟練者によって、測定、記録、分析を実施し、かなり労力を費やしていました。このシステムを導入すれば、検査の大幅な省力化がはかれます。
 これまでに取得した特許は30件くらいです。そのなかには、共同特許も多くあります」

─── どのような生産方法をとっておられますか。

 「当社は、設備を持たないメーカーなので、社内でモノをつくりません。自分で設備を持つと設備をもとに考えるようになりがちです。設備を持たないので、食品関係をはじめいろいろな分野にトライできます。
 この地域は、ステンレス加工の先端基地として知られています。ステンレス加工の技術にすぐれた企業がたくさんあります。それらの企業にパーツをつくってもらい、当社で組み立てて客先に納入しています。品質・納期とも100%で、輸出先のアメリカ企業からの表彰も受けています」

─── 顧客へのアプローチの仕方はどうなっていますか。

 「当社では、提案型の営業を基本にしています。たとえば、当社のシステムを導入して10年くらいたった顧客に対しては、ここを変更すれば使えるとか、効率がよくなるといった提案の仕方をしています。それがきっかけで、新たな商談がまとまることが多くあります。
 顧客は、県外がほとんどで、関東から中部までの広い範囲にわたっています。ほとんどが上場企業です。海外の顧客も少なくありません」
毎年開発テーマを設定し 新分野の開拓に取り組む

─── どのような事業展開を考えておられますか。

 「これまでのやり方を基本にしながら、それに関連した新分野・新市場を開拓していきます。モノづくりが好きな人間ばかりですし、一歩でも半歩でも先を見ながらやっていきたいと考えています。
 当社では、毎年みんなで相談して開発テーマを設定しています。関発チームをつくり、メンバーの役割分担を決め、定期的に会議を持ちます。外注先と協力しながら試作品をつくり、それに改良を加え、完成品に仕上げていきます。開発に2年、3年かかるケースもあります。
 今年の場合は、「緊急用飲料水小型貯水タンク」の開発に取り組んでいます。これは、主に一般家庭で災害に備えて飲料水を確保しておくためのものです。15リットル入りですから、4人家族で3日間くらいは大丈夫です。
 われわれの任務は、トライ・アンド・エラーの連続です。成功と失敗の確率は半々といったところです。しかし、たとえ失敗に終わったとしても、図面は残りますから、次の開発に生かせます。失敗を恐れず、意欲を持ってやることが大事です。開発ほどおもしろいものはありません」

─── 新しい人材が必要になりますね。

 「1998年は、若い人を1、2名入れるつもりです。新卒者でも転職者でもかまいません。将来は、担当者ごとに若い人を一人つけて、チームを組んでやっていくようにしたいのです。それには、まず若い人にとってやりがいのある会社にしなければなちないと考えています」